
Google が、研究者の「相棒」みたいに振る舞う AI を、世界一有名な科学誌のひとつ Nature に発表しました。これ、なかなかすごいんですよ。
名前は「Co-Scientist(コ・サイエンティスト)」。日本語にすると「一緒に研究する人」みたいなニュアンスです。研究室の中で人間と並んで、新しい治療法のアイデアを出してくれる AI、というイメージです。
要はこういうことですね。これまでの AI は、研究者が質問を投げて答えを 1 個返す、という使い方が中心でした。Co-Scientist はそこを大きく変えています。
ひとつの問いに対して、AI を何人ものメンバーに分けて、その中で会議をさせるんです。誰かが「こういう仮説どうかな」と出す。別のメンバーが「ここは根拠が弱い」とツッコミを入れる。別の誰かが「じゃあこう組み直したら」と書き直す。最後に「いちばん有望なのはこれ」と順位を付ける。
これを何回も回して、勝ち残ったアイデアだけが、人間の研究者の手元に届く、という流れになっています。AI が「お利口な検索エンジン」から、「研究室の 4 人目のメンバー」みたいなところに動いた、という話なんですね。
具体的な成果としていちばん効くのが、米スタンフォード大学のラボでの実験結果です。
舞台は「肝線維症(かんせんいしょう)」という病気。慢性的な肝臓のダメージが続くと、肝臓がだんだん硬くなっていく病気で、今のところはっきり効く薬がまだ確立していない領域です。
Co-Scientist が「こういう薬を試したら効くんじゃないか」という候補をいくつか提案して、スタンフォードの実験室が中から有望なものを選んで試してみた。その結果、肝臓が硬くなる反応を 91% 抑える、という結果が出たそうです。
ここは厳密に言うと「AI が病気を治した」ではなく「AI が出したアイデアを、人間が試したら効いた」という段階の話です。それでも、AI のアイデアが実験室の試験管の中で効果を見せた、というのは新しい場面です。
Google は Co-Scientist を 100 以上の研究機関に提供して試してもらっていると公表しています。薬の研究、新しい素材の研究、基礎物理など、分野もまちまちのようです。
これは「AI で研究が変わるかも」という話ではなく、もう実際に「研究室の足回りとして使われ始めている」段階に来ている、ということなんですね。
東京大学や京都大学、理化学研究所、産業技術総合研究所などでも、研究に AI を組み込む動きはずっと続いてきました。現場で悩むのは「どこを AI に任せて、どこを人間が残すか」の線引きです。
Co-Scientist みたいなやり方は、その線引きを「アイデア出しと議論は AI、最終判断と実験は人間」というかたちにまとめやすい。薬や素材の研究室、特に中ぐらいの規模のラボには、ハマりやすそうに見えます。
一方で気になるのは、日本語の論文や臨床データをどれだけうまく扱えるかです。ここは Google の AI が日本語をどこまで理解するかと、セットで見ていきたいところ。
私たちの暮らしに、いますぐ届くのは「新薬の研究スピードが少し速くなる」という形の変化です。たとえば肝臓の病気に効く薬が、いつもより数年早く臨床試験に進む、みたいなことが現実に起き始めています。
AI が仮説を「言うだけ」だった時代は終わり始めていて、AI が出した仮説を実験で確かめ、人間が判断する――そういう新しい役割分担が、ラボの中で実際に動き始めています。続報待ちですね。
Google DeepMind: Co-Scientist — A multi-agent AI partner to accelerate research