🕛 2026.5.13 09:47 文:ズバッとショウ

Google ADKが「2 週間動き続けるAIエージェント」のレシピ公開。新人オンボーディングを丸ごと任せる設計

Google ADKが「2 週間動き続けるAIエージェント」のレシピ公開。新人オンボーディングを丸ごと任せる設計
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エージェントを「2 週間動かす」という話。

Google Developers Blog が 5 月 12 日付で公開したのは、AI エージェントに「新人さん一人分のオンボーディングを丸ごと任せる」レシピです。書類を送って、署名を待って、IT アカウントを作って、端末の到着を待って、初日のスケジュールを送る——。普通のチャット AI だと数分しか覚えていられないこの流れを、2 週間ぶっ通しで文脈を失わずに回し続けるための設計が示されています。

執筆は Eric Dong(Google の Developer Relations Engineer)。サンプルコードは GoogleCloudPlatform/generative-ai リポジトリで全部公開済み。実際に動かせるライブデモまで同梱されています。

「新人オンボーディング」を AI に任せる、具体的な流れ

なぜこの題材なのか。実は、新人さんが入社する流れは、AI エージェントにとって「いちばん難しいタスク」の見本市だからです。

リポジトリの実装を順に追うと、エージェントは次の 5 つの状態を順番に進んでいきます。

  1. START — 新人さんから氏名・個人メール・入社予定日を聞き取り、ウェルカムパケット(書類一式)を送付する
  2. WELCOME_SENT — 新人さんが書類に署名するのを待つ。数日かかる。エージェントはここで眠る
  3. DOCUMENTS_SIGNED — 署名完了の通知を受けて、IT 側に「メールアドレスと Slack アカウント作って」と依頼する
  4. IT_PROVISIONED — 会社支給のノート PC が新人さんの自宅に届くのを待つ。また数日かかる。エージェントはまた眠る
  5. HARDWARE_DELIVERED — 配送完了の通知を受けて、初日のスケジュール(時間割・Slack 招待リンク・上司の紹介文)を送って、完了

普段の AI チャットだと、5 番目までの一連の流れは「1 つの会話」では絶対に終わりません。途中で数日空く工程が 2 回も挟まる。普通の chatbot は、人間が画面を閉じた瞬間に「いま何のステップにいたか」を忘れてしまいます。

数字を見よう。何が壊れるのか

ステートレス chatbot(その都度ゼロから考える普通のチャット AI)で 2 週間級の業務を回そうとすると、3 つの形で壊れます。

ひとつ、話の履歴が膨らみすぎる。これまでのやり取りを全部 AI に毎回読み直させる方式だと、2 週間で数百ターン分の雑談・ツール出力・指示が積み上がる。AI は「いま何のステップ?」を見失う。

ふたつ、お金が溶ける。同じ履歴を毎回読み直すたびに料金(トークン)を消費する。1 件のオンボーディングで数千ターンになり、その大半は今の判断には無関係な過去ログ。

みっつ、幻覚を見はじめる。3 日眠ってから「再開しよう」と分厚い履歴を読まされた AI は、「もらってない承認をもらった」「終わってない手続きを終わったことにする」と勝手に話を進める。

context window(一度に読める量)を 1000 万トークンに増やしても、この問題は解けません。そもそも仕組みを変える必要がある、というのが今回の主張です。

仕組みをやさしく — 3 つの工夫

ADK の新人オンボーディング・エージェントは、3 つの工夫でこれを解いています。一般のたとえに落とすとこうなります。

ひとつ目は 状態を「手帳」に書く 工夫です。会話の履歴を全部覚えるのではなく、「今は WELCOME_SENT」「今は IT_PROVISIONED」と、5 つの状態のうちどれかを SQLite(簡易データベース)に書き残す。AI が再開するときは、長い履歴を読み直さず「手帳の今のページ」だけを見る。これが durable memory schema(耐久的なメモリスキーマ)と呼ばれる設計です。

ふたつ目は「待つときは眠る」工夫。書類署名待ちの数日間、エージェントは画面の前でずっと張り付くのではなく、コンテナごとシャットダウンして眠る。署名が完了したという通知(webhook)が来た瞬間に、また起きて続きを進める。これが event-driven dormancy gates(イベント駆動の休眠ゲート)。電気代と AI 利用料の両方を節約できる。

みっつ目は「専門係に丸投げ」する工夫。「IT アカウント作って」「端末手配して」を 1 つの巨大プロンプトで自分でやろうとせず、IT 専門のサブエージェントに渡す。新人エージェントは「HR の段取り係」に徹し、技術系の作業は別の AI が引き受ける。役割分担すると、それぞれのプロンプトが短く・正確になり、間違いが減る。これが multi-agent delegation(マルチエージェント委譲)。

3 つはバラバラの話ではなく、「状態を切り出す → 待機できる → 委譲できる」と順序で噛み合って動きます。

いまの実力と限界

リポジトリには動くライブデモまで入っています。React + FastAPI 構成で、画面は 2 つに分かれています。

ひとつは「HR の司令塔」画面で、いまどの状態にいるか・どんなイベントが起きたかが時系列で見える。もうひとつは「社員ポータル」画面で、新人さんが受け取った書類を確認し、署名ボタンを押し、端末配送の確認ボタンを押せる。署名ボタンを押した瞬間に画面が進むのではなく、裏側で AI エージェントが起き上がって、状態を進めて、それから画面が反映される——という、実運用に近い動きを正直に再現しています。

ただし、これは「すぐ職場で稼働する完成品」ではありません。Gemini 3.1 Flash-Lite で動くサンプルコード、つまり「自分の会社の状況に合わせて作り変える土台」です。日本企業で使うなら、IT 部門のアカウント発行 API、社内端末配送業者の追跡 API、人事システム(SAP SuccessFactors、Workday、SmartHR 等)への接続を自分で書き込む必要があります。

半年・1 年・3 年の見立て

半年スケールでは、HR・経理・情シスの「数日空く工程がある業務」を AI に任せる試みが、まず大企業の一部チームで始まるはずです。請求書ディスピュート(ベンダーからの回答待ち→経理ルーティング)、稟議承認、ヘルプデスクの長期チケット——どれも同じ「状態マシン + 休眠ゲート」のパターンで組めます。

1 年スケールでは、Microsoft(Copilot Studio)、Anthropic(Claude エージェント)、OpenAI(Codex / Agents)も同様の「数日級の業務を任せる」テンプレートを横並びで出してくると見ています。今回 ADK が早めに公開リポジトリ + ライブデモの形で出したのは、その先頭を取る動きとして読める。

3 年スケールでは、「AI に任せられる業務」と「人が判断する業務」の社内の線引きが、想像以上に AI 側に寄ります。新人オンボーディングのような「定型 + 待ち時間」の業務は、ほぼ自動で回るのが普通になっているでしょう。

だから何が変わるの?

私たちが日々付き合う「AI」は、これまで「質問に即答してくれる相棒」でした。これが「2 週間ずっと案件を覚えていてくれる、控えめな同僚」へと役割を広げていきます。新しい職場で初日に会う「受付係さん」「総務の人」「情シスの人」が、実は全部 AI——という未来は、もうそんなに遠くありません。Google が公開したこのレシピは、その未来の輪郭をいちばん具体的に見せてくれる、初の本格的な一次資料です。

みんなの反応

エージェント職人
(AIエージェント開発者・20代男性)

state machine を enum で SQLite に永続化する設計、シンプルで好きです。LangGraph や Temporal でやってたことの ADK 版が出てきたという位置づけ。webhook resume の組み方が現場で参考になる
ひまわり先生
(小学校教師・20代女性)

「2 週間覚えていてくれる AI」を新人オンボーディングで例えてくれたのが、自分にも刺さりました。学校現場でも、保護者対応の進捗を AI に覚えてもらえるなら、いつか助かりそう
D
DXおじさん
(大企業DX推進室長・40代男性)

新人オンボーディングは社内で「AI 化したいけど手が出ない領域」のド本命。HR と情シスにまたがる業務だから、サブエージェント委譲のパターンが効くのは納得です。社内の人事システム(SmartHR / Workday)との接続が次の宿題
U
UXデザインの人
(UXデザイナー・AI製品・30代女性)

「ボタンを押した瞬間に画面が進むのではなく、裏側で AI が起きて状態を進めてから画面が変わる」という挙動を、デモで正直に見せている設計が素晴らしい。UI で楽観表示するとユーザーが混乱するので
訪問ヘルパーゆき
(訪問介護ヘルパー・60代女性)

「数日空く工程がある業務」っていう言い方が、すごく現場っぽくて分かりやすかった。介護でもケアプランの更新は数日かけて段取りすることが多いので、いつかこういう仕組みが入るのかな

情報元
Google Developers Blog — Build Long-running AI agents that pause, resume, and never lose context with ADK(2026-05-12, Eric Dong)
Agent Development Kit (ADK) 公式
GitHub — GoogleCloudPlatform/generative-ai – New Hire Onboarding Sample

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