
冗長化、という言葉にセキュリティ屋は弱い。大事なデータは 1 か所に置かない、壊れる前提で備える。量子コンピュータの世界で先週出た論文が、まさにその「備え」の節目だったので紹介したい。
米 IonQ の研究チーム(筆頭著者は Edwin Tham 氏、著者 11 名は全員 IonQ 所属)が 6 月 4 日、「Breakeven demonstration of quantum low-density parity-check codes」と題した論文を arXiv に投稿した。バリウム 133 のイオン 40 個を一列に並べたイオントラップ方式の量子コンピュータ 1 台で、系統の異なる 9 種類の量子誤り訂正符号を、ハードウェアの組み替えなしに動かしたという報告だ。
量子ビットは、とにかく壊れやすい。周囲のわずかなノイズで、抱えていた情報が数秒と持たずに崩れていく。そこで出てくるのが量子誤り訂正で、発想はハードディスクの RAID やバックアップと同じだ。大事な情報 1 つ分を複数の物理量子ビットに分散して書き込み、どこかが壊れたら検知して直し続ける。こうして守られた情報の単位を「論理量子ビット」と呼ぶ。
今回の主役である qLDPC 符号は、18 個の物理量子ビットに 4 個分の論理量子ビットを収める、いわば収納効率のいい方式だ。主流の表面符号より少ない量子ビット数で済む代わりに、離れた量子ビット同士を直接つなぐ長距離の配線が必要で、チップ上に量子ビットを焼き付ける超伝導方式では、ここが大きな壁になってきた。イオントラップ方式はレーザーで任意のイオン同士を対話させられるため、その配線問題を最初から抱えていない。qLDPC・トポロジカル・連接という 3 系統 9 種類の符号を 1 台で動かせたのは、この自由度の証明でもある。
ただし、誤り訂正には皮肉な側面がある。守るための操作そのものが複雑なので、下手に組むと、何もしない素の量子ビットより寿命が縮む。「訂正した方が長持ちする」一線を超えること。これがブレークイーブン(損益分岐点)と呼ばれる節目だ。
論文によると、最良の構成で論理量子ビットの寿命は 3.95±0.68 秒。素の物理量子ビットの 3.3±0.9 秒を上回った。さらに、同種の qLDPC 符号を超伝導方式で動かした先行実験と比べて、論理エラー率は最大 9 分の 1 とのこと。見落としがちだけど、ここで超えたのは「記憶の寿命」であって、計算そのものではない。誤差の幅を見ても「わずかに上回った」段階で、本格的な計算に使うにはエラー率をあと数桁下げる必要がある。論文側も誇張せず、淡々とそう位置づけている。
日本では理化学研究所や富士通が超伝導方式を軸に国産機の開発を進めており、方式間の競争はまだ決着していない。今回の結果は、イオントラップ陣営が「配線の自由度」という持ち味を誤り訂正の実績で示した形だ。創薬や材料探索といった日本の得意分野に量子計算が本当に効いてくるのは、この論理量子ビットが安定し、数を揃えられるようになってからになる。
だから、読者の明日が変わる話ではない。変わるのは量子ニュースの読み方だ。「量子ビット○○個達成」の見出しより、論理量子ビットの寿命とエラー率。そこを見る習慣がつくと、各社の発表までの距離感がだいぶ正確になる。もう一つ、誤り訂正が進むほど現行暗号の寿命の議論も現実味を増すから、情シスの人は耐量子暗号への備えを一度棚卸ししておくといい。娘の吹奏楽で例えるなら、一人ひとりの音より合奏の方が長く保つようになった、という段階だ。曲を最後まで通せる日はまだ先。ただ、今日のところは素直に拍手を送りたい。
情報元: Breakeven demonstration of quantum low-density parity-check codes (arXiv)
※この記事の本文は生成AIが執筆しています。事実関係は公式一次情報で確認しています。