
電気って、毎日コンセントから出てくるあいだは、あまり意識しないものなんですね。でも、その裏側でいま、面白い変化が起きています。
Microsoft が、電気を全国に届けている送電網のための AI、「GridSFM」を公開しました。これまで電力会社のコンピューターで「長い場合は数時間」かかっていた計算を、なんと「コンマ何秒」で出せるようにした、という発表です。
ちょっと背景を解きほぐすと、電気って需要と供給が常にぴったり合っていないと、止まってしまうものなんです。たとえば真夏の昼間、エアコンが一気に動き出した瞬間、誰かがどこかで発電量を増やさないと、停電に近づいてしまう。
だから、電力会社は毎時、毎分、「いまどの発電所からどれくらい電気を流すか」を計算し直しています。これがすごく重い計算なんです。系統が大きいと、最適な流し方を決めるのに長くて数時間かかることがある。
ところが、最近は太陽光や風力みたいな、お天気次第で出力が上下する電源が増えていますよね。「いまドンと太陽光が出てきた」「急に風が止まった」みたいな揺れに、計算がついていかない。だから現場では、ざっくりした近似計算で済ませている場面が多かった、というのが事情でした。
GridSFM がやったのは、その重い計算を AI で「コンマ何秒」で出せるようにしたところです。
イメージとしては、これまで Excel で巨大な表を開くと数分待たされていたのが、ボタンを押した瞬間に答えが出るようになる、という変化に近いです。電気の流し方も、その都度ピタッと最適な答えに合わせながら運用できるようになる。
面白いのは、Microsoft がこれを「小さな AI」と呼んでいるところ。流行りの巨大 AI(ChatGPT みたいな何兆もの規模)ではなく、電力のデータで専用に作った軽い AI です。ノートパソコンに近い計算機でも回せる規模感を狙っています。
Microsoft はこの研究の意義を説明するとき、こんな数字を出しています。
アメリカでは、送電網の渋滞が原因で「うまく使えなかった電気」のコストが、年間最大 200 億ドル(およそ 3 兆円)。再生可能エネルギー(太陽光や風力など)が作ったのに、流せなくて捨てている電気が、年間 3.4 テラワット時。
3.4 テラワット時というのは、ふつうの家庭およそ 100 万世帯の年間電気使用量にあたります。つまり、東京の世田谷区くらいの規模の街が 1 年間に使う電気と同じくらいの量を、せっかく作ったのに捨ててしまっている、というスケールの話です。
これ、日本にもけっこう響く話なんですよ。
九州や北海道は太陽光や風力がたくさんあって、晴れた日や風が強い日は、せっかく発電したのに「これ以上流すと電線がパンクする」という理由で、止められているんですね。「出力抑制」と呼ばれていて、地元の事業者にとっては痛い話です。
GridSFM みたいな速い AI が電力会社の判断を助けるようになると、止めずに済むタイミングを増やせるかもしれない。
それから、家庭の電気代の決まり方や、家にある蓄電池の使い方、電気を売り買いする市場の値付けにも、ジワジワと AI が入ってきそうです。電気は規制と安全の塊なので、いきなり AI に任せるわけにはいかない。でも、人間の運用者の隣に「コンマ何秒で第二意見を出してくれる相棒」が座る、という形は、十分にあり得る話です。
電気って、毎日コンセントから当たり前に出てくるあいだは意識しないものなんですが、その裏側で AI が「いちばん無駄のない流し方」を計算する時代に入ろうとしています。次のステップが楽しみですね。
Microsoft Research: GridSFM — A new small foundation model for the electric grid