
量子コンピュータの「誤り訂正」が、実際の計算で効くのかどうか。長く問われてきた論点に、ひとつ手がかりが出ました。
フランスの量子コンピュータ企業 Pasqal が、公式ブログとプレスリリースで成果を公開しました。中性原子方式の量子プロセッサを使い、微分方程式を量子カーネル法という手順で解いたとのこと。ポイントは、同じ計算を「物理量子ビット」と「論理量子ビット」の両方でやって、成績を比べたところにあります。
量子ビットはノイズに弱く、放っておくとすぐ計算を間違えます。論理量子ビットは、複数の物理量子ビットを束ねて 1 個の「壊れにくいビット」に仕立てる工夫です。途中で生じた誤りを検出し、結果に影響する前に取り除く。たとえるなら、大事な数字を 1 枚のメモに書くのではなく、複数の写しを突き合わせて食い違いを直しながら進めるようなものです。今回 Pasqal が使ったのは、2 個の論理量子ビットでした。
検証は 1000 本の微分方程式で行われ、論理量子ビットは物理量子ビットを平均で 50% 以上、ある非線形問題の代表例では 10 倍、精度で上回ったと報告されています。見落としがちだけれど、ここで効いているのは「量子ビットの数を増やした」ことではなく、「誤りを訂正する仕組みを挟んだ」ことです。微分方程式は、流体の動きや熱の伝わり方、金利のモデルなど、変化のしかたを記述する数式で、物理や工学、金融の土台にあります。
これまで論理量子ビットの利点は、もつれ状態の準備やアルゴリズムの部品といった「基本操作」でしか確かめられていませんでした。ひとつの問題を最後まで解き切る計算で、論理量子ビットが物理量子ビットを上回ったのは初めてだ、というのが Pasqal の主張です。問題はここで——これは 2 個の論理量子ビットによる概念実証であり、実用規模にはまだ距離があります。「すぐ使える量子コンピュータ」が登場した、という話ではありません。
日本でも理化学研究所や富士通、複数の大学が量子コンピュータの開発を進めています。誤り訂正が実問題で効くという結果は、各社が描く実用化ロードマップの節目をひとつ確かめたことになります。量子コンピュータのニュースを読むとき、「量子ビットが何個」という数字だけでなく、「論理量子ビットで何を最後まで解けたか」を見ると、進み具合がつかみやすくなります。実用までは 5〜10 年スパンの話として、動向は追っておきたいところです。
Pasqal: Logical Qubits Outperform Physical Qubits Solving Differential Equations