
ボストン・ダイナミクスが、人型ロボット「Atlas」に冷蔵庫を運ばせる様子を技術ブログで公開しました。胴体を180度ひねり、しゃがんで小型冷蔵庫を持ち上げ、座って待つエンジニアのところまで運んでいく。投稿は2026年5月18日、Atlas の振る舞い開発を率いる Alberto Rodriguez さんら3人のエンジニアの執筆です。動画を見ると、けっこう人間くさい持ち方をしています。
ここ数年のロボット操作は、カメラで物を見て、指先でつまむ軽作業が主役でした。ただ、それだと重い物は扱えない。同社も、いまの主流のやり方は「カメラ映像に頼りすぎ」「ロボットの指先など、ごく限られた面でしか世界に触れていない」「軽い作業に偏っている」と率直に書いています。
人間が冷蔵庫を運ぶときを思い出すと、前腕やひざ、肩まで総動員して、相手の重さや形に体のほうを合わせていきます。Atlas にやらせたのも、まさにそれ。カメラで見るのではなく、自分の関節が感じる手応え(固有受容感覚と呼ばれる感覚です)から、冷蔵庫の重さや位置、ずれ具合を読み取って体を寄せていく。個人的に刺さったのは、ここを「見て理解する」ではなく「触れて確かめる」に振り切ったところです。
訓練の流れも具体的に書かれています。まず、お手本になる動き(今回はアニメーションを一本)を用意し、それに沿うようご褒美のルールを決める。次に、シミュレーション上でその動作を数百万時間ぶん、GPU を並列に回して練習させる。うまくいったら実機でテストし、得られたデータでまた訓練を調整する。「作って・壊して・直す」を素早く回す、というやり方です。
で、気になるのが訓練と実機のズレ、いわゆる sim-to-real ギャップなんですが、同社はこれが「とても小さい」と説明しています。新型 Atlas はアクチュエータが2種類だけ、左右も前後も対称、関節をまたぐケーブルもなし。構造がシンプルなぶん、シミュレーション上で実機をかなり正確に再現できる。だから「シミュレーションで良く見える動作は、実機でも良く見える」のだそうです。
数字でいちばん効いてくるのがここです。冷蔵庫を運ぶ方策は、約50〜70ポンド(およそ23〜32kg)の荷重を想定して訓練したのに、実機では中身を詰めて総重量100ポンド(約45kg)を超えた冷蔵庫を運びきった、と書かれています。しかも中身は研究室にあった雑多な物で、重さは均一でもなく、運搬中に庫内で動く。訓練のときに重さや床の摩擦、モーターの強さをわざと少しずつ揺らす「ドメインランダム化」が効いて、その手の不揃いをロボット側が吸収できた、という説明です。
ちなみに本体重量は90kg(198ポンド)。前モデルと比べると、もう「研究用の実験機」という雰囲気ではなく、工場や倉庫で重い物を運ぶ製品として鍛えている、という印象に変わってきました。
新しい動作を、ゆくゆくは1日で訓練して配備したい——同社はそんな目標も書いています。日本でも、製造や物流、建設の現場には「2人がかりでないと運べない重い物」がたくさんあって、そこは人手不足がいちばん響くところ。腕力だけでなく全身で重量物を扱えるロボットが、その隙間にどこまで入ってこられるか。続きが早く見たいところです。
Boston Dynamics — Training a Humanoid Robot for Hard Work